鯉が絡まり合っている。
大岡川の中空に、欄干から四方を紐で繋がれた鯉のぼりが整然と列をなしている。
赤、青、黄色、緑、色とりどりの鯉のぼりは等間隔に間をあけて、川沿いの欄干から伸びるロープで、大きく開いた口の上下と尾びれの上下が結ばれ、均等に配されている。
五月の強い風に吹かれて、大きく口を開けて膨らみ、ねじれ、それぞれが四方を紐で縛られているため、隣り合うものとからみ合うことはなく、そばでひとりもがいている。
飛べそうに強い風に吹かれながら、もがいている。
一向に前にも後ろにも進むことなく、その場で捩れながらたなびいている。
花の時期を過ぎた新緑の桜の樹はどっしりと根を下ろした太い幹から伸びる枝を川面の方に垂れ、折れてしまってもいいと言わんばかりに吹く風に身を任せている。
風に揺れる水面は朝の光を反射してきらめいて、目が眩んだ。
鯉が大きく口を開けている。
一瞬ぴたりと風が止み、高架線を走り抜ける京急電車の轟音が鳴り響いた。またいっそう強い風が吹く。
鯉はもう、抵抗することを止めて、捻れた身体をロープに巻きつけていた。
また風が止む。
鯉はうなだれて、ぺたんとしおれていた。
そういえば5月に鯉をたべたことがある。もう10年以上も前のことだ。
佐賀県有田町の龍水亭という立派な料亭だった。そこで鯉のあらいをたべた。まだ二十代だったわたしには不釣り合いな堂々たる見世構えで、当時の上司が連れていってくれた。その人はちょうど父と同じ齢だった。
床の間と飾り棚のある趣のある和室の縁側からは庭の生簀で泳ぐ鯉が見えた。
そこで一週間真水に晒されて、泥抜きをするのだそうだ。
鯉の味は覚えていない。
あの人は今どうしているだろうか。