Vol.2
蟻と舎利
そこには小高く盛られた土の山があった
その土の山から蟻の群衆が連なって何処かへ向かっている
蟻にひとつひとつの個の意識があるのかないのかをわたしは知らない
蟻は、まるでその線となった一塊をもって
蟻の意識をなしているかのような振る舞いをみせている
黒い線を凝視してみると、皆それぞれに小さな白い何かを背負っていた
土の山からそれを運び出してきたのか
「それは骨だと思います
ストゥーパから蟻たちが骨を全て運び出してしまったので、おかげでここにはもう何もありません」
一九四五年五月二十九日、空き地に積み上げられた死体の中から、あの人を探すことさえわたしはできなかったのよ、だって、真っ黒だったんですもの、すべて燃えてしまったのよ
「だけど、納められた仏舎利は、釈迦入滅後に八つに分けて配られ、容器と灰土を合わせて十基のストゥーパが造られたのちに、アショーカ王はそれらのストゥーパを壊して八万四千に細分化し、各地に新たなストゥーパを建設したといわれているので、もう、その骨はガンジス川の砂粒のごとく無数であり、数えることもままなりません」
血と油と、なんとも言えない臭いがした、誰もが叫び、誰もが誰かを探していた、やがて軍人さんが来て、二人一組となり死体の頭と足を支えて、貨物自動車に積み込んで行く、わたしはどうしても、どうしてもあなたを見つけたかった
「蟻たちは、すべての骨の中から仏性を集め、形を成し、質量を持った時、そこに仏が立ち現れるという信仰をしているのです」
わたしはね、仏性なんてものは探してはいないの、道徳心のかけらもないあんたを、探していたのよ
わたしは傍らに転がっていた死体をあなただと決めた、やがて誰彼となく、そういう風にして、これがこの人だと言い張る女が数人表れて、皆それぞれに協力し合い、死体を運んだ
私たちは大岡川の側で死体を荼毘に伏せ、翌日、骨を拾い集めて、土饅頭をつくったのです
粉骨された骨を埋めて作られた土饅頭の傍ら、卒塔婆にはこう記された
「為戦死者諸精霊彼岸供養」
わたしは時折、手のひらに一握の米粒を握りしめて普門院へ参る
こうして七十四回目の五月を迎えた
お地蔵さんの前に米粒を供えて、ただただ手を合わせる。
愛国弁当
2019/ 陶磁器、土、お手玉
マケルハチマキ
2019/ 布、墨、口紅
これをあなただと思うことにした
2019/ 藁